現在,電車列車においてもICT(情報通信技術)の重要性は増してきており積極的な活用が図られています.
鉄道車両では車載マイコン制御機器の導入とともに列車の情報システム化が進みました.列車内のあらゆる機器がネットワーク接続され,さまざまな情報が行き交うようになり,列車の高機能化・高信頼化・乗客サービスの拡充を支えています.このシステム構築にあたってはイーサネットベースの列車制御情報システム(Train Communication Network, TCN)が中枢として位置づけられています.
本書は,このような状況を踏まえ,列車制御情報システムの基本的な技術と応用例,規格,構成技術について解説するものです.本書の構成は以下のようになっています.
第1章では,本解説書の前提として,電車列車の基本的な動作原理を簡潔にまとめました.
第2章では,鉄道車両制御の基本となる「引き通し電線方式」について,原理と課題をまとめました.
第3章では,鉄道車両の高性能,高機能化に対応した新しい制御方式の中核となる「直列データ伝送方式」について,その基本原理から最新方式に至る進展をまとめました.
第4章では,列車伝送系を活用した情報通信技術の具体的応用事例についてまとめました.
4.1節では,鉄道車両の中枢機能である列車全体の制御および機器監視を行う車両制御情報システムTCMS(Train Control and Monitoring System)について,
4.2節では,鉄道車両の情報通信技術の進展によって導入可能となった列車内の映像,音声データを扱う各サービスとそれらに適用されている技術について,
4.3節では,新しい鉄道の保守体系として,従来の定期型保守体系から,リアルタイムの状態監視による保守を行うCBM(Condition Based Maintenance)について,
4.4節では,情報通信技術を活用した新しい自動運転装置ATO(Automatic Train Operation)について述べます.
第5章,第6章では,通信の相互接続のための標準体系となるTCNの国際規格化について,制定方法,制定経緯,規格内容の概要を述べます.
第7章,第8章では,TCNの代表的な適用例であるTCMSを例にとり,鉄道車両用の情報通信システムを設計するにあたり必要となる技術的要素をまとめました.
第9章では,情報通信技術の進展に伴って新たな展開を見せる車上システムと地上側システムとの連携について述べます.
第10章では,今後増大すると考えられる鉄道車両用情報通信機器の国際調達に関して,課題と注意点についてまとめました.
本書は,列車制御の情報システムの基本から適用方法までをできるだけわかりやすく記述しています.
https://www.ohmsha.co.jp/book/9784274229138/
正誤表やDLデータ等がある場合はこちらに掲載しています
第1章 電車列車の基本的な仕組み
第2章 引き通し電線方式
第3章 直列データ伝送方式
第4章 車両への情報通信技術の応用
第5章 列車伝送系と国際規格
第6章 新しい列車伝送系国際規格 (イーサネット方式)
第7章 TCMSの構成技術
第8章 TCMSの基本要素技術
第9章 地上・車上間連携への展開
第10章 車両用情報通信機器の仕様策定と国際調達
第1章 電車列車の基本的な仕組み
1.1 車載装置の構成
1.2 電力供給
1.3 列車の制御
第2章 引き通し電線方式
2.1 引き通し電線方式の仕組み
2.2 多値指令のコード化
2.3 制御指令が主体
2.4 引き通し電線の課題
2.5 引き通し電線方式の必要性
第3章 直列データ伝送方式
3.1 伝送回路の絶縁方式
(1)20mAカレントループ
(2)絶縁型RS485トランシーバ
(3)トランス絶縁
3.2 伝送方式の進化
(1)調歩同期方式
(2)HDLC方式
(3)CAN方式
(4)イーサネット方式
3.3 イーサネット方式の概要
(1)伝送系の階層構造
(2)物理層の信号
(3)アドレス体系
(4)フレーム構成
3.4 データの種類
(1)プロセスデータ
(2)メッセージデータ
(3)ストリームデータ
(4)ベストエフォートデータ
第4章 車両への情報通信技術の応用
4.1 車両制御情報システム(TCMS)
(1)列車伝送系の機能分担
(2)基本機能
(3)編成制御
(4)システム構成
(5)システムの頑強性
(6)列車の分割・併合
4.2 映像音声系のサービス
(1)ビデオ監視/CCTVシステム
(2)旅客案内表示システム
(3)音声システム
(4)無線LANサービス
4.3 CBMの考え方と基本構成例
(1)列車の保守とは
(2)状態監視保全(CBM)とは
(3)CBMに必要な構成
(4)具体事例
4.4 情報通信技術を活用したATO
(1)ATOの基本的な仕組み
(2)地形を利用した省エネ走行
(3)定時間省エネ走行
(4)運行管理システムとの連携
(5)運転支援装置(DAS)
第5章 列車伝送系と国際規格
5.1 国際規格と審議体制
(1)国際規格と日本
(2)ISOとIECおよび関連組織
(3)国際規格の国内審議体制
(4)国際規格開発の手順
5.2 列車伝送系国際規格の経緯
5.3 WTBとMVBの概要
(1)WTBとMVBの階層構造
(2)WTBの基本仕様
(3)MVBの基本仕様
(4)上位階層の共通化
5.4 列車の分割・併合対応
(1)列車の併合
(2)列車の分割
(3)連結器の接触不良対策
5.5 冗長系構成
(1)伝送路の二重化
(2)伝送路およびノードの二重化
第6章 新しい列車伝送系国際規格 (イーサネット方式)
6.1 イーサネット伝送系の国際規格化の経緯
(1)車両伝送系追加の動き
(2)イーサネット伝送系の追加
(3)ECNとETBの相互連携による統合
(4)TCN改訂版の構成
6.2 列車伝送系の構成
(1)列車の編成構成
(2)列車伝送系とコンシスト伝送系
6.3 ETBの概要
(1)マルチドロップとスイッチデバイス接続
(2)分割・併合対応
(3)連結・解放検知
(4)冗長系構成
6.4 ECNの概要
(1)IPアドレスとアドレス変換
(2)分割・併合に伴うコンシストIDの再割付例
(3)R-NAT
(4)冗長系構成
(5)伝送路の昇圧
(6)ケーブルとコネクタ
6.5 標準プロトコル(TRDP)
(1)プロトコル統一の経緯
(2)TRDPのオープンソース開発
(3)リアルタイム性の実現方式
6.6 安全性データの伝送
(1)SDTv2の位置づけ
(2)SDTv2の安全対策
6.7 車上マルチメディア応用の国際規格
(1)マルチメディアサービス系の国際規格化の経緯
(2)マルチメディア伝送系の特徴
(3)TCMS伝送系とマルチメディア伝送系の連携
第7章 TCMSの構成技術
7.1 車載機器としての条件
(1)環境条件
(2)性能条件
7.2 機器間インタフェース
7.3 伝送端末装置の構成方法
(1)基本構造
(2)電源系統
(3)基板構成
7.4 マイコン制御装置の異常検知
(1)低電圧検知
(2)ウオッチドッグタイマ(WDT)
7.5 システム設計
(1)システム設計
(2)ソフトウェアの基本構成
(3)リモートローディング
第8章 TCMSの基本要素技術
8.1 速度発電機による距離・速度・加減速度検知
(1)列車の速度
(2)列車の加減速度
(3)移動距離の計測
8.2 速度発電機以外の位置・速度検知方式
(1)GPSによる位置検知
(2)ミリ波速度センサ
(3)ジャイロと加速度センサ
8.3 共通時刻情報
8.4 フェールセーフ伝送系
(1)フェールセーフ回路
(2)CPU制御のフェールセーフ化
(3)ソフトウェアダイバーシティ
(4)フェールセーフ伝送系の構成
8.5 表示および映像関連の装置
(1)運転台ディスプレイ
(2)旅客案内表示情報の配信
(3)客室,ホーム,前方映像監視記録システム
第9章 地上・車上間連携への展開
9.1 地上・車上間統合システム
(1)輸送指令と列車運転
(2)列車と車両保守部門の連携
(3)列車と消費電力管理
(4)列車による信号,線路,架線監視
9.2 地上・車上間統合システムの設計
(1)地上・車上間統合システムの設計
(2)統合システムにおけるデータ保証
9.3 地上・車上間データ伝送
(1)拠点間無線伝送
(2)沿線連続無線伝送
第10章 車両用情報通信機器の仕様策定と国際調達
10.1 車両用情報通信機器の仕様策定
10.2 国際調達
文献一覧
索引